今回は、映像制作と切っても切れない関係にあるカメラワークのお話です。
同じシーンを撮影していても、切り取り方によってできあがる映像の印象は大きく異なります。
映像中でメッセージを効果的に伝えるために、カメラワークを活用してみましょう。
今回は基本的なカメラワークの種類や活用場面をご紹介します。
この記事の監修者
「動画の窓口®️」動画コンシェルジュ
池上 和
不動産営業マンから動画クリエイターに転身。現在は動画コンシェルジュ。 『動画の窓口®︎』プロデューサー。企業動画を年間約1,000本プロデュース&制作している。動画の窓口株式会社社長。合同会社イエロー代表。動画フリーランスコミュニティ「若羽-wakabane-」創業者。
目次
カメラワークの演出にはどんなものがある?
一口にカメラワークと言っても、カメラを三脚で固定するだけのものから大がかりな機材を使ってカメラをダイナミックに動かすものまで、さまざまな種類があります。
特にここでは個人のレベルで再現可能なカメラワークを6つご紹介します。
フィクス(フィックス・固定撮影)
フィクス(フィックス)撮影は、カメラを固定して撮影を行うものです。
「なんだ、それだけか」と侮ることなかれ。実はこの基本の撮影方法は非常に大切なんです。
特に手持ち動画と比較すると、フィクス撮影された動画は長時間見ていても疲れず、被写体を集中して見ることができます。
固定方法はさまざまですが、可能であれば三脚を使うと思い通りの画角で固定ができます。イベントの撮影のように混雑した環境でどうしても一脚や三脚が使えない場合はしっかりと脇を締め、カメラに手ブレ補正機能がある場合には補正をONにして極力手ブレが発生しないようにフィクスを行いましょう。
フィクスがしっかりと撮影できるカメラマンこそが真のプロといえます。
パン
「パン」とは、カメラを左右に動かして情景の説明やシーンの切り替えをする技法です。
フィクス(固定)撮影では入りきっていなかった部分をパン撮影で新たに映すことで、情報の補足を行うことができます。
また、素早く左右どちらか一方にカメラを振ることで、スピード感のあるシーン切り替えを演出できます。次のシーンもパンから始めれば、より自然に映像をつなぐことができるでしょう。
ティルト
続いてご紹介するのは「ティルト」というカメラワークです。
「パン」は左右にカメラを振るものだと解説しましたが、カメラを振る方向が上下になると「ティルト」と呼ばれるようになります。
人間の下半身から上半身、顔面へティルトアップすれば、被写体がどのような表情をしているかを視聴者を焦らしながら見せることができます。
他にもエンディングのシーンでゆっくりと空にカメラがティルトアップしていく技法によってシーンの終わりを予感させることもできます。
パンよりも利用シーンは少ないですが、効果的に使うことで視聴者の心理をうまく誘導することが可能な技法がティルトです。
ズームイン・ズームアウト
これは専門用語を知らない方でも知っていることが多いカメラワークなのではないでしょうか。
被写体に寄るのがズームインで、被写体から引いていくのがズームアウトですが、基本的にはカメラのズーム機能やレンズのズーム機能などを使って、寄り・引きの操作をすることを意味します。
ズームインをすることで被写体に注目させることができますし、ズームアウトしていくことで被写体の周囲の状況を視聴者に意識させることができます。
被写体と周辺との関係を緩やかに見せたい場合は、ゆっくりとズームイン・ズームアウトすることが重要です。逆の場合はズームイン・ズームアウトを素早くする必要があるため、カメラに備わっているズーム機能よりもレンズ自体を手で操作してズームイン・ズームアウトをするほうが効果的です。
ドリー
ドリーとはカメラ自体が動くことによって、被写体や映像に立体感を持たせる撮影技法です。専門用語としては被写体に近づいたり(ドリーイン)、被写体から遠ざかったり(ドリーアウト)といったものがあります。ドリーのための機材がありますので、いくつかご紹介いたします。
・スライダーシステム
スライダーシステムは1台または2台の三脚にレールを乗せてその上をカメラが移動する機材です。近年ではオートメーション化されたものも出ていますが、プロの現場ではカメラマンが操作するケースが多いです。三脚1つで設置する際には以下のようなスライダーサポートアームを利用することをオススメします。
・レールシステム/ドリーシステム
こちらはスライダーと似ていますが、地面にレールを設置することで、三脚自体がレール上をスムーズに動く機材です。
コンサートの撮影やドラマの撮影など広い会場では、レールシステム/ドリーシステムが効果的にはたらきます。レンタルをすれば比較的低額で借りられるので、広い会場でレール/ドリー撮影をする際には検討してください。
また、WING7のようなコンパクトスライダーも悪くはないのですが、どうしてもカメラの重さに耐えきれず干渉が起こったり、水平が傾いたりしますので、プロの現場では絶対にオススメしません。
・ジンバル/スタビライザー
ジンバル/スタビライザーはX・Y・Zの3軸をぶらさずに安定して手撮りでも撮影できる機材です。映画や時代劇などのアクションシーンが多い現場では体全体に装着するようなものもありますが、現在一般的な撮影現場で主流となっているのは片手または両手で持てるジンバルです。
人気のジンバル/スタビライザーとしてRoninS3とZHIYUNがあります。
ダンスやアクションなどを撮影するときには非常に効果的で、14mm〜35mmの比較的広角なレンズと相性がよいです。レンズズームやフォーカスの調整をしなければならない場合はサポートシステムもありますので、2人以上で撮影する場合もあります。
重要ポイント
ジンバルを使ってスライダーのような立体的な撮影を行うケースもありますが、高い確率で縦ブレが出てしまうためキレイな横移動の撮影をしたい場合には、ジンバルではなくスライダーをオススメします。
・手持ち撮影
手持ち撮影もドリーの一種といえます。最近では手ブレ補正機能が強力なミラーレス一眼カメラやGoProなどがありますので、手撮りでも安定した撮影ができる時代になってきました。ドラマの演出で緊迫感のあるシーンではあえて手ブレを出すために手撮りで撮影するケースもあります。
Vlogや旅行でちょっとした撮影をする場合には手撮りでも十分楽しめますので、手ブレ補正機能を存分につかっていきましょう。
トラック
動きを追うことを「トラッキング」と言いますが、トラック撮影では被写体の動きに合わせてカメラを移動させます。
たとえば走っている人を撮影する際、フィクス撮影ではその人を客観的に見せることができるのに対し、トラック撮影ではより臨場感のある主観的な映像ができあがります。
台車を使ってトラック撮影を行っても良いですし、最近ではドローンを使うことも多いです。
近年では被写体に対してのフォーカス技術も高まってきていますので、被写体が単独の場合はオートフォーカスで問題なくトラック撮影が可能です。
クレーン
クレーンはカメラを縦と横に自在に動かすことができるカメラワークシステムです。特に縦の動きを使うことにより、会場や現場の広さを演出したり、通常のジンバルなどでは出せない三次元な立体感を生み出すことができます。
バラエティ番組やドラマではよく使われますが、近年では10万円前後でも以下のような優れたクレーンシステムを購入することができますので、興味がある方は利用をオススメします。
重要ポイント
土台となる三脚が強靭でないと歪みが生じるため、高価な三脚も購入する必要があります
上級のカメラワークテクニック
ここまでは基本的なカメラワークの技法をご紹介してきましたが、ここで3つほどもう少し踏み込んだ内容に触れようと思います。
基本を押さえた上で、ここぞという場面で活用してみてください。
カメラを2台〜複数使って撮影する
通常一つのカメラで被写体を撮影することが多いですが、いくつかのカメラを使うことで2つ以上のイメージの異なる映像を作ることがあります。
例えば以下の動画では、「ウエストショット(腰上)」「バストショット(胸上)」の2つのカメラが組み合わされています。それぞれの映像は視覚的な意図があります。以下に解説します。
・ウエストショット(腰上)…背景や空間が入り込むことにより世界観や本人の持つイメージを演出できる。
・バストショット(胸上)…顔に近い映像のため、本人の持つ迫力や言葉の力が伝わりやすい。
インタビュー時の複数台カメラによるメリットとして、会話の節々をカットする際に異なるアングルをつなげることによって自然な繋がりに見せることが出来ます。
さらに、以下の動画で複数台カメラを使ったおもしろい映像をご紹介します。
この動画は5台〜10台のカメラを使ってスーパースローで被写体を撮影しているSONY制作の動画です。有名な映画「マトリックス」で弾丸を避けるシーンでもこの技法が使われています。セッティングや撮影の演出などが非常に困難な技術ですが、カメラ1台では撮影することができないトリッキーな撮影が可能となります。
重要ポイント
注意点として、カメラを複数台使って撮影する場合にはイマジナリーラインを越えないようにすることが重要です。具体的には以下の図のように1カメでは被写体が右を向いているのに、2カメの被写体は左を向いていると、その空間において被写体がどこに存在して何をみているのかのイメージが視聴者にとって崩れてしまいます。
ブレをあえて取りいれる
手ぶれ防止機能に代表されるように、一般的に映像のブレはネガティブなものだというイメージが定着しています。
しかし、あえてブレを取り入れることで演出に使うこともできるのです。
躍動感を演出したいときや、映画のようなダイナミックな映像を撮影したいとき、もしくはドラマの演出で緊迫感のあるシーンでよく用いられます。
ただしブレを入れすぎると視聴者は不快感を覚えてしまうため、要注意なテクニックです。
重要ポイント
カメラの手ぶれ補正設定に注意!あえてブレを入れる映像を撮影する場合には、カメラの手ぶれ補正は「オフ」にしましょう。オンにしていると、横軸または縦軸に補正がかかり自然な手ぶれ感が出せません。わたしはSONYカメラを利用していますが、おそらくどのメーカーでも同様の症状になることが予想されます。
構図にこだわる
写真や動画の構図は本当に奥深いもので、カメラを扱うなら避けて通ることはできません。
画面を縦横三分割で捉えて空間を効果的に使う「三分割構図」や、被写体を真ん中に大きく置き、迫力のある絵面にする「日の丸構図」など、写真で使われているテクニックは映像においても使うことができます。
構図のレパートリーがあればあるほど、上手な演出ができるといっても過言ではありません。
重要ポイント
構図を経験的、視覚的に学びたい場合はたくさんのスチール写真に触れることをオススメします。スチールは動画と違って静止画ですが、その分ワンショットの構図に非常に繊細に注意が向けられています。
基本はフィクス、キラーカットは動きのあるカメラワーク
ジンバルやスライダーなどを手にするとどうしても動きのある映像を撮影したいと思うものですが、視聴者が落ち着いて映像に注目できるのはあくまでフィクスです。フィクスがあってはじめて動きのあるカメラワークがより機能するものになります。撮影前にどのシーンでどのカメラワークを使うのか確認しておくとよいでしょう。
カメラワークを活用して魅力的な動画を
カメラワークを工夫することで、これまで単調で退屈だった映像も劇的に変わる可能性があります。
たくさんの技法を学び、実際に撮影をしてみてください。
次第にカメラワークの上手な使い分けができるようになってくるはずです。
映像に関するこのようなご相談はお気軽に「動画の窓口」にご相談ください!